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そして振り向かずに店内へと入った。
正直、まともに見られなかったのだ。
奴の顔が。情けないことに。
何を買うのか考えもまとまらないまま、とりあえず飲料コーナーへ向かい、ガラス扉の中からお気に入りの缶チューハイを2本、取り出してカゴに入れる。と、
「そのくらいなら、ほどほどでオッケーです」
まったくもって無防備だった背後から声をかけられ、びっくりして振り返ると『有森省吾』が爽やか~な笑顔で立っていた。
「あ、これお奨めです。ライバル社の新製品ですけど、甘さ控えめ、後味スッキリ」
そう言いながら勝手にカゴに入れる。
「何よ。ライバル社の宣伝までしてる訳?おたくの部長が聞いたらさぞかしお嘆きでしょうね」
「まさか宣伝なんて。でも、良いモノは良い。美味いモノは美味い。それは認めなきゃでしょ?で、それよりももっと美味くて良いモノを作る!それが俺の仕事ですから」
――――コイツ、さすがだわ…。
「え?何か?」
「べ、別に。若いくせに結構マジメに考えてるんだな~と、ちょっと感心しただけよ」
「惚れました?」
「は、はぁ?ちょっと感心しただけって言ったでしょ。自惚れるんじゃないの!」
「ちぇっ」
――――はぁ~、何なのコイツは。
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