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食品業界同様、飲料業界も先読みの世界であり、次々新製品を開発していかなければ取り残されてしまうのが現実。
思い立ったがすぐに試作品を作り上げ、プレゼンテーションを繰り返し、ネーミング、パッケージデザイン、ポスター、CM制作…などなど、怒涛の如く流れていく。
味、品質は勿論、消費者向けインパクトや小売価格に至るまで、一連の流れを的確に、且つ迅速に行わなければ他社に先行されてしまう。
しかし、人間の頭の中身などそれほど大差は無く、だから同時期に同種類のモノを考えついたとしても不思議はない訳で。
カロリーを下げる。味の種類を増やす。その上で品質を上げる――。
このぐらいの事は誰でも思いつく訳だから、あとは個々の好みとか閃きとか勘とか…、いわゆるセンス。
そういうモノに頼るしかないのだ。
その中心となる、我が社の心臓部分が『開発部』。
ここで作り出された血液が、手や足や脳にあたる各部署へと流れていく。
どれが欠けても成り立たないが心臓に成り代われる部署は他には無い。
そして――、
その心臓部分を受け持っているのが有森省吾のいるチーム、という訳。
だから脳天気に見えて、奴は奴で大変なはずなのだ。
しかも将来を嘱望されたエリートとなれば、その重圧たるや相当なものだろう。
ピザを頬張り、缶チューハイのプルトップを引いた。
喉に流し込みながら横目でテーブルを見る。
「これ、お奨めです」
そう言って見せた奴の顔が浮かんだ。
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