1 出逢いの章

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――――私は今日、何をしてたんだっけ…。アキラに会って、引っ叩いて…。 そう、別れたんだ。5年も付き合っていた男と。そのうちの半分近くが二股だったと知って、別れた。 悲しくは無かった。 怒りさえ、すでに忘れかけている。 ただ、忙しさにかまけて見抜けなかった自分を腹立たしく思うだけだ。 ――――それもこれも奴に。『有森省吾』に振り回されたおかげかもしれない。 まったく…、人懐っこい顔で笑うんだから。ほんと、あの顔で何人の女を泣かしてきたんだか。 その顔が奨めたプルトップを引き上げる。 ――――うん、美味しい。確かに奴の言う通り、甘さ控えめ、後味スッキリ、だ。 改めて缶を眺めてみた。 ――――でも、このデザイン…。う~ん、私ならもうちょっと違うロゴでいくな。 何て言うか、中身と外側のイメージが違い過ぎる。まぁ、それが狙い、って事もあるだろうけど…。 でも私なら、もっとふんわりとしたイメージでいきたいな。飲む前からある程度想像がついて期待して飲めるやつ。で、その期待に見事に応えてみせる、そんなやつに。 もし明日、会社で会う事があったら、これについての感想は言ってやろう。『さすが、我が社のエース。舌が肥えてるじゃない』って。
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