5 葵 再び

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立ち上がってキッチンへ。 カウンターの上にペアのワイングラスが並んでいた。 あの時、素直になれなかった。 繋いだ手を離すように仕向けたのは他の誰でもない、私自身だ。 もう時間は戻らない。 無理に戻そうとすれば、きっと壊れてしまう。 ――――壊したくないもんね…。たとえ、二度と触れ合う事が出来なくなったとしても。 お湯を沸かしながら、フライパンにベーコンと、二人分の卵を割り入れた。 1人の時と同じ、いつもの手順。 ミルでコーヒー豆を挽いていると省吾が起きた。 「ごめん。うるさかったね」 「ううん。音じゃなくて匂いで目が覚めた。凄ぇいい匂い。毎朝挽くの?」 「うん。毎朝挽くよ」 そのまま2人並んでカウンターテーブルで朝食。 「俺、朝って、インスタントのコーヒーだからさ。こういうの憧れるな~。明日からインスタント飲めなくなりそう」 「大袈裟ね。ミルで挽いて、フィルター通せば美味しくなるわよ」
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