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「残念ながら、酔ってないので帰りまーす」
ふざけるように言いながら靴を履いた省吾をマンションの下まで見送りに出た。
「じゃあ、迎えに来ますから。おやすみなさい」
明日の約束を確認後、白のランドクルーザーにエンジンがかかる。
ライトが点き、省吾がハンドルを切った。
そのまま敷地から出て行くと思って見ていたら、ブレーキランプが点いて車が停まった。
運転席側に近づくと、窓が開いたままだ。
「どうしたの?」
「あのね、山岸豊、覚えてる?」
「うん。写真家の山岸くんでしょ」
「そう。あいつがね、専門学校時代に付き合ってた彼女からね、やってくれってうるさく言われてた事があるんだけど、あいつ、『そんなの出来るか』っていつも言っててね。俺もそれ聞いた時、出来るかよって思ってた事があるんだ。ドリカム知ってる?」
「知ってるよ」
「じゃあ、未来予想図Ⅱって歌は?」
「知ってる」
「それをね、最近思い出して、実はディズニーランドの帰り、やったんだよね」
――――え?じゃあ、あれはやっぱり…。
「たぶん、気づかなかったと思うんだけど。今日はね、やるから見てて?角曲がって見えなくなるまで車を見ててね。じゃあ」と省吾が前を向く。
「省吾!」
「ん?」
「気づいてたよ…」
「ほんと?」
「でも、まさか、って思ってた。偶然だろーな、って」
省吾が優しい顔で笑う。
「5回だからね。意味、解るよね?」
「たぶん…」
「たぶん?う~ん…、ま、いいや。じゃあね」
ランドクルーザーが走り出した。
私は省吾に言われた通り、車が角を曲がるまで見えるよう、通りに出る。
ウインカーが点滅した。
そしてブレーキランプが点灯。
1回、2回、3回、4回、5回…。
見えなくなった。
――――ドリカムの歌詞、省吾に教えたのは山岸くんだったんだね。何だ、そうだったんだ。な~んだ。
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