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まさか、そんな心の声が聞こえたとは思えないけれど、こちらに背を向けて歩いていた有森省吾が振り返った。
――――あ、え?えぇ?嘘!
思うが早いか走って来る。
「先輩!おはようございます!」
朝から爽やかな笑顔だこと。
「あ、おはよ」
な~んて事ない顔して、気のない声で返事をした。
「早いですね。今日、何かありましたっけ?」
「別に何も。たまにはラッシュを避けてね」
「葵先輩!おはようございます!」
有森省吾の後ろから、ひょっこりと那美嬢が顔を出した。
――――あなたまでついて来ちゃった訳ね…。
「おはよ、那美ちゃん。今日も可愛いわね」
「やっだぁ~、葵先輩ったらぁ」
そう言いつつ、有森省吾の目を意識している。
――――ほんと、解りやすいというか、素直というか。可愛いわね~。それを冷静に見られる私もたいしたものだわ。これが年の功ってやつかしら。
「あ、そうだ。昨日のお奨め、美味しかったわよ。さすが我が社のエース。舌が肥えてるな~って感心したわ」
「惚れました?」
「は、はぁ?バ、バカじゃないの?朝から何言ってんのよ!」
慌てて那美嬢の顔を見る…と、予想通り引き攣っている。
――――マズい!
「あ。でも、1つ気になった事があるの。缶のデザインがね~、私だったら違うな~って思ったわ」
懸命に仕事の話に戻す。と、
「さすが先輩!俺もそう思ったんですよ。だからこそ先輩に飲んでもらいたかったんです!」
いや、やっぱりな~、さすが宣伝企画部のチーフだな~、と感心する事しきり。
その横で、那美嬢は黙ったまま有森省吾を見上げてる。
――――あー、まったく~。フォローになって無いじゃない。う~ん、とりあえずここは…。
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