1 出逢いの章

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まさか、そんな心の声が聞こえたとは思えないけれど、こちらに背を向けて歩いていた有森省吾が振り返った。 ――――あ、え?えぇ?嘘! 思うが早いか走って来る。 「先輩!おはようございます!」 朝から爽やかな笑顔だこと。 「あ、おはよ」 な~んて事ない顔して、気のない声で返事をした。 「早いですね。今日、何かありましたっけ?」 「別に何も。たまにはラッシュを避けてね」 「葵先輩!おはようございます!」 有森省吾の後ろから、ひょっこりと那美嬢が顔を出した。 ――――あなたまでついて来ちゃった訳ね…。 「おはよ、那美ちゃん。今日も可愛いわね」 「やっだぁ~、葵先輩ったらぁ」 そう言いつつ、有森省吾の目を意識している。 ――――ほんと、解りやすいというか、素直というか。可愛いわね~。それを冷静に見られる私もたいしたものだわ。これが年の功ってやつかしら。 「あ、そうだ。昨日のお奨め、美味しかったわよ。さすが我が社のエース。舌が肥えてるな~って感心したわ」 「惚れました?」 「は、はぁ?バ、バカじゃないの?朝から何言ってんのよ!」 慌てて那美嬢の顔を見る…と、予想通り引き攣っている。 ――――マズい! 「あ。でも、1つ気になった事があるの。缶のデザインがね~、私だったら違うな~って思ったわ」 懸命に仕事の話に戻す。と、 「さすが先輩!俺もそう思ったんですよ。だからこそ先輩に飲んでもらいたかったんです!」 いや、やっぱりな~、さすが宣伝企画部のチーフだな~、と感心する事しきり。 その横で、那美嬢は黙ったまま有森省吾を見上げてる。 ――――あー、まったく~。フォローになって無いじゃない。う~ん、とりあえずここは…。
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