1 出逢いの章

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今から1時間前――。 大の男の頬を思いっ切り引っ叩いてきた。 2人で過ごした5年もの年月は「猜疑」という名の紐で束ねられ、骨組みさえも残らない。 『キミと別れるつもりは無いんだ。僕を理解出来るのはキミだけなんだよ。キミの前の僕こそが本当の僕なんだから』 と男は言った。 『揺るぎ無いキミの強さが寂しかった。無いものねだりのちょっとした浮気だよ。キミなら解ってくれるよね?子どもじゃ無いんだからさ』 悪びれる様子も無く、男はそう言い放った。 その浮気相手とは――。 私よりもずっと年下で、何か言えば、すぐに小首をかしげて甘えて来る、そんな女だった。 俗に言う、『可愛げ』のある、つまり私とは真反対に位置する女。 ――――だいたいね、2年も関係を続けておいて、『ちょっとした浮気』っていう言い方は無いんじゃないの? プライドも傷ついたけれどもそれ以上に、当然、とでも言いたげな男の態度にムカついて、大通りのカフェの、それも洒落たオープンテラスではあったけれど、その自慢の顔を思いっ切り引っ叩き、タクシーに飛び乗ったのだった。
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