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大通りを駅に向かって歩いていると、後方から激しくベルを鳴らした自転車が猛スピードでやって来た。
「危ない!」
那美嬢の腕を引き寄せると同時に暴走自転車が脇を走り抜ける。
「あっぶないわね~。自分しか居ないとでも思ってんのかしら」
そう毒づく私に、「ありがとうございます」と那美嬢が頭を下げた。
「あの、先輩…」
「ん?なぁに?」
――――やっと口を開いてくれる気になったか…。
「私の家族の話を引き合いに出したりしたら先輩に失礼かもしれないんですけど。私の母は、父よりも12歳年上なんです」
――――え?しまった!年上彼女なんて誰も褒めないなんて、私ったら余計な事言っちゃった。だから黙っちゃったんだ…。
「ごめん。私さっき、失礼な事言ったわ。ごめんなさいね」
「いえ、違うんです。母が言ってた事を思い出したんです。『年上女のくせに』って散々言われたって」
「そう」
「私が生まれるまで母は看護師をしていました。ずっと独身で、37歳の時に看護師長になったんです。その時も周りからは随分言われたそうです。先輩看護師を差し置いて、どんなコネを使ったの?とか、色々…。
で、1年後に父が新人内科医として配属されて来たんですけど、初日の挨拶回りの時からモテモテだったそうです」
「まぁ」
「で、その父を母がサポートする事になったんですけど、母としては顔のイイ男にロクなのは居ないって思い込んでたから…。可笑しいでしょ?そんな理屈」
「そうね」
――――でも、那美嬢のお母様の言い分も解る。それは多分、そういう男を見てきたからだ。
「それがね。父に関してはどうも違うなって思うようになったんですって。何ていうか、人を上から見ない、そんな人だったって。
意見はしっかり言うけど、間違いだと解ったら、例え相手が新人ナースでもちゃんと頭を下げる事が出来る人だったって。ご両親のしつけが良かったんだな、と感心していたら、半年後にいきなり『好きです』って言われたんですって」
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