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改札を抜け、どちらからともなく立ち止まる。
「母は本気にして無かったんですけど病院中の噂になって、父を狙ってた後輩ナース達から陰口を叩かれるようになって。
その時に一番傷ついた言葉が、『年上女が年下男を騙した』だったそうです」
――――うん、解る。私だって傷つく。言われるって解っていても耳に入ってくるのはツラい。
「結局、母はその病院を辞めて民間の個人病院へ移ったんです」
「まぁ、勿体無い…」
「ほんとは師長なんていう柄じゃなかった。でも断ったら、二度と声がかからないと思ったから無理してたの、って言ってました」
「そう」
「ようやく平穏な毎日になったと思っていたら3ヶ月後に父がやって来て…」
「え?お父様も?」
「そうなんです。これには母も、びっくりするより呆れた、って言ってました。でも、凄く楽しそうだったって。お給料も減っちゃったはずなのに、患者さん1人1人と話す姿が凄く楽しそうだった、って」
「えぇ」
「それから半年くらい経って『ご飯食べに行きませんか?』って誘われて、自然な感じでついて行ったそうです。
病院を変わってからはアプローチも無かったので、てっきり気が変わったんだと思っていたら、『そろそろ惚れてくれてもいいんじゃないですか?』って。
いきなりですよ?椅子に座るなりいきなり言ったんですって」
「やるわね~、お父様」
「でね。母はびっくりしたけど可笑しくなっちゃって。『そうですね。でも多分、少し前から惚れてました』って答えたんですって」
「まぁ。お母様も素敵!」
「父の両親…、今同居してる祖父母なんですけど、挨拶に行く時は緊張したそうです。絶対に反対されると思っていたから。ところが予想に反して大歓迎で」
「もしかして、おばあさまも年上だったとか?」
「いえ、そうじゃないんですけど、父が毎日毎日、母の事を話すんですって。『凄い人なんだよ。優しい人なんだよ。俺はあんな人とだったら幸せになれるな~』って。これは祖母から聞いたんですけどね」
「それって、いわゆる作戦ね?」
「そうだと思います」
那美嬢が幸せそうな笑顔を見せた。
――――心理を突いた素晴らしい作戦だ。人柄の何たるかを知って納得したら、年齢なんてまったく無意味かもしれない。
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