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体ごと、闇に吸い込まれそうな気がしてた。
このまま意識の彼方に飛んでしまってもいいような、柄にも無い事を思ったりもした。
その時だ。
「あの~」
自分以外、誰も居ないはずの場所で声がして、心臓が止まるほど驚き振り返る。と男が1人立っていた。
月明かりに浮かぶシルエットに、思わず身を固くする。
「あ、えっと、怪しい者じゃ無いです。何かお探しのように見えたので。でも、こう暗いと1人じゃ大変でしょ?だから、その、お手伝いしようかと思いまして」
男はそう言って屈み込むと、身構える私にお構い無し、そのまま砂に手をついた。
これを怪しいと言わずして何と言うだろう…。
何でもありません、と否定の言葉を繰り返す私に、
「いえいえ、遠慮しないでください」
そう言って男は砂をかき分け続けている。
――――何、コイツ。ちょっとおかしいんじゃない?
怖さよりもイライラが募ってきた。
「探し物をしてるなんて一言も言ってませんけど?ほっといてもらえませんか!」
自分でも解るぐらい口調がきつい。
そのうち喉の奥からは吐き気に近い怒りが込み上げて、ついに言ってしまった。
「いい加減にして!」と。
ただそれは、『声』というよりもむしろ、嗚咽とともに吐き出された『音』でしかない。
体中を駆け巡り、棘という棘をすべていきり立たせた『音』が男の頭上に落ちていく…。
――――止められない…。こんな私は私じゃ無い…。
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