1 出逢いの章

5/113

608人が本棚に入れています
本棚に追加
/395ページ
体ごと、闇に吸い込まれそうな気がしてた。 このまま意識の彼方に飛んでしまってもいいような、柄にも無い事を思ったりもした。 その時だ。 「あの~」 自分以外、誰も居ないはずの場所で声がして、心臓が止まるほど驚き振り返る。と男が1人立っていた。 月明かりに浮かぶシルエットに、思わず身を固くする。 「あ、えっと、怪しい者じゃ無いです。何かお探しのように見えたので。でも、こう暗いと1人じゃ大変でしょ?だから、その、お手伝いしようかと思いまして」 男はそう言って屈み込むと、身構える私にお構い無し、そのまま砂に手をついた。 これを怪しいと言わずして何と言うだろう…。 何でもありません、と否定の言葉を繰り返す私に、 「いえいえ、遠慮しないでください」 そう言って男は砂をかき分け続けている。 ――――何、コイツ。ちょっとおかしいんじゃない? 怖さよりもイライラが募ってきた。 「探し物をしてるなんて一言も言ってませんけど?ほっといてもらえませんか!」 自分でも解るぐらい口調がきつい。 そのうち喉の奥からは吐き気に近い怒りが込み上げて、ついに言ってしまった。 「いい加減にして!」と。 ただそれは、『声』というよりもむしろ、嗚咽とともに吐き出された『音』でしかない。 体中を駆け巡り、棘という棘をすべていきり立たせた『音』が男の頭上に落ちていく…。 ――――止められない…。こんな私は私じゃ無い…。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

608人が本棚に入れています
本棚に追加