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一時間後、練習が始まる前に、体育館には早々に西谷と田中が入っていた。そこに日向が到着すると、西谷が何やら頭を抱えながら奇声を発している。
「のーーーーっ!」
体育館の中央をぐるぐると回っている西谷を、田中は遠目で見ながらストレッチしている。
「ど、どうしたんですか? ノヤっさん」
入り口でその光景を見た日向は、ビックリして、すぐに田中の側に行って、耳打ちして聞いた。
「あ、あぁ…それがな、ノヤの奴、見せちまったかも知れないらしいんだよ」
「見せた? な、何をですか?」
「んー、あれだ」
「?」
日向が不思議そうな顔をすると、手で隠しながら田中が小さな声で言った。
「要するに、股間…」
「こ、股間!? 誰にですか?」
「清子さん」
「えーっ!?」
日向の声が、三人しか居ない体育館に響いた。その中央には、相変わらず西谷がぐるぐると回っている。
「オ、オレは何てことをしてしまったんだ…見られてしまったかも知れない、清子、さんに…」
田中は日向に説明を続けた。
「着替えの時にな、偶然清子さんが入って来ちゃってさ、見られちゃったみたいなんだと。それから、ずっとあの調子なんだよ」
「ノヤっさん…」
日向が同情して見ていると、西谷は日向が入って来たことに気付いた様子で、走ってきた。
「おぉ、しょーよー!」
「ノヤっさん、大丈夫ですかっ?」
「お、おう! オレはいつでも元気だぜ!」
さっきまであたふたしていた西谷は、後輩の日向を前にしてすっかり笑顔にして見せた。
(ノヤっさん、かっこいーなー!)
しばらくして体育館に、ボトルのカゴを持った清水が入って来た。それにいち早く気が付いた田中は、そばに走り寄った。
「おっ、潔子さん! お持ちしますよ!」
「大丈夫、自分で持てるから。それより、西谷は…」
「あ、あぁ、ノヤは大丈夫ッスよ。清子さんは、気にしないで下さい!」
「そう。でも、もう一度、謝ってくる」
「ちょ、清子さん!(もう傷を抉らないほうが…)」
そう言って清水は、西谷に声を掛けた。
「西谷、さっきはごめんね」
「潔子さん!?」
「全然、気にしてないから。じゃ」
「き、気にしてない…(やっぱし、見られてたー)」
清水の言葉に、西谷は石化したかのようにショックで固まった。
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