十六夜レモネード

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生きている 私はまだ、生きている 手首を切れば、呼吸は止まるかしら 別に死にたい訳じゃない でも でもね 特に生きたい訳じゃない だから私は 左手首を開こうと思うの 誰にも愛されない私が失われても、世界は少しも悲嘆しない そうでしょ? 窓から射し込むのは、月の光 青白く悲しい十六夜の月 私はそれを見つめながら、手首の内側に冷たいものを宛てがう 涙が零れて 頬が濡れた 白い肉に、赤い赤い華が咲いた それはゆっくりと花弁を開き 白い床へと蔓を伸ばしてゆく 綺麗 私の中にも、こんなに綺麗なものがあったのね その時ふと、 窓の外を、 何かが落ちていった 一瞬だけ私の目に焼きついたそれは とてもとても、綺麗だった 身を乗り出して、窓の下を覗いた 純白の翼を生やした何かだった 鳥じゃない 人間でもない その美しい大きな翼は、片方が折れていた 天使だと、私は思った 天使は、私を見た 無垢な瞳は、まるで赤ん坊のよう この子はきっと、すぐに息絶える 私は何も出来ないの 手首の痛みは、既になかった 私は死んだ 天使も死んだ その時、分かった 目の前のこの存在は、私が生きていたら生まれていた命なのだと 傍らのテーブルに置いてあるグラスの中の氷が、カランと音を立てた
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