落着アポロジー

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「……先輩が何の用かしら?」 食事の手を休め、隻眼を細めたヤミナは、棘のある口調で、相席者に尋ねました。 この様子から察するに、やはりこの方は……フィアやみなさんとは面識のある方のようです。 「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。今日はぼく一人だし……ここへはきみたちと同じく、お昼ご飯を食べにきただけさ。きみたちを見かけたから、声を掛けただけだよ」 相席者のこの方は、涼しい顔で対応します。 ……しかし、この方は女性……で間違いありませんよね? 制服のボタンが左にありますし……中性的な容姿の上、ズボンを履いておられるので、ほんの一瞬ですが判断に迷いました。 「……失礼ながら、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」 フィアを含め、この場の全員が彼女と面識がある中、私だけが彼女を知らぬという状況……このまま話を進められてしまっては、私だけ理解が追い付かなくなってしまいます。 せめて、名前だけでも……と、隣に座る彼女へ半身を向け、口を開きました。 「ああ、そうか。きみが話に聞いていた二重人格の……」 「私のことをご存知でしたか。私はフィナ、と申します。以後お見知りおきを」 「フィナ……だね。覚えたよ。ぼくはコウキ。よろしくね、フィナ」 話の流れからして、この方が先輩であることは明らかですので……今後、フィアに倣って、先輩と敬称を付けてお呼びすることに致しましょう。 そのコウキ先輩は、私の言葉の意図を素早く察してくれた上……私が挨拶をして軽く会釈すると、自らの自己紹介と共に握手を求めてくださったのです。 私もそれに応じると、爽やかな微笑を浮かべておりました……これが先輩のオーラ、というものなのでしょうか。同級生とはひと味違います。 「さて……食事の邪魔をするつもりはないから、そのままで結構だよ。食べながら、適当に聞き流しておいてくれればいい」 コウキ先輩は改まって、皆を見渡すようにしながら前置きをします。 しかし、本当に聞き流すようなことはみなさんするはずもなく……いや、エアリだけは本当に聞き流しているようでしたが、兎に角メンバーの大半は真面目に耳を傾けて、コウキ先輩の次の言葉をじっと待ちます。 「先日の件。本当にすまなかったね」 コウキ先輩の口から放たれたのは、なんと謝罪の言葉。 それと共に、コウキ先輩は深々と頭を下げたのでした。
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