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「さて、と。それじゃあ私は、そろそろ訓練に戻ろうかな」
そう言って、空気を仕切り直したユナは、その一言で自分の気持ちまで切り替えたようで。
さっきまでと同じく、穏やかな笑顔なんだけど……これから一仕事やるぞー、っていう気合も伝わってくる。
「フィアちゃん、それにみんなも、面白いもの見せてくれてありがとね。機会があれば、また……さ、行くよイリス」
「はいっ、ご教授よろしくお願いしますッ、ユナ教官! それではみなさん、私はこれから訓練があります故、これで……大してご案内できず申し訳ありませんでしたっ! どうかごゆっくり見学していってくださいねっ」
ユナは軽く私たちに手を振りながら……イリスさんは、深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べ、ユナに続いて場を後にする。
「……コウキ、アオイ、ユカリ。アタシらも行こうぜ。いつまでもこいつらと一緒に居る理由はねー」
すると、今度はアカネ先輩まで……。
そう吐き捨てると、ポケットに手を突っ込み、背を見せて早歩きで去っていく。
「ごめんねぇ、アーちゃんたら無愛想で」
「昔から不器用なんだよねえ。あれ、ただ気恥ずかしいだけで、きみたちのことは認めてるはずだから悪く思わないであげてね」
アカネ先輩とは対照的に、アオイ先輩とコウキ先輩は私たちに近づいてきて、耳打ちしてくれた。
それを聞くと、なんだかほっこりしちゃうな。
私たちは顔を見合わせて、くすくすと笑みが零れる。
「なにやってんだ、早く行くぞ!」
「はーい、今行くわよー」
「お呼びが掛かっちゃった。じゃあね、フィアちゃん」
アカネ先輩の呼び掛けに、にこにこしながらアオイ先輩は応え、小走りで追いついていく。
コウキ先輩も同じく……そして、小さく私たちに向けて手を振りながら。
「おい一年っ! 次はこうはいかねーからな! 一回勝ったからって、調子に乗るなよッ!」
アカネ先輩は、ビシぃっと左手の人差し指を私たちへ突き立て、勢いよく言の葉を発する。
単純な勝敗にのみ拘らず、決して慢心はするなという後輩に向けたアドバイスだね!
「はいっ、ありがとうございましたっ!」
そんなアドバイスには、せめてもの感謝の気持ちを表すよ!
私は深々と頭を下げて、いつまでも先輩たちの背中を見送った。
胸を貸してくれた先輩たちに、精一杯の敬意を!
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