触発コンフリクト

48/50
前へ
/443ページ
次へ
「さて、と。それじゃあ私は、そろそろ訓練に戻ろうかな」 そう言って、空気を仕切り直したユナは、その一言で自分の気持ちまで切り替えたようで。 さっきまでと同じく、穏やかな笑顔なんだけど……これから一仕事やるぞー、っていう気合も伝わってくる。 「フィアちゃん、それにみんなも、面白いもの見せてくれてありがとね。機会があれば、また……さ、行くよイリス」 「はいっ、ご教授よろしくお願いしますッ、ユナ教官! それではみなさん、私はこれから訓練があります故、これで……大してご案内できず申し訳ありませんでしたっ! どうかごゆっくり見学していってくださいねっ」 ユナは軽く私たちに手を振りながら……イリスさんは、深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べ、ユナに続いて場を後にする。 「……コウキ、アオイ、ユカリ。アタシらも行こうぜ。いつまでもこいつらと一緒に居る理由はねー」 すると、今度はアカネ先輩まで……。 そう吐き捨てると、ポケットに手を突っ込み、背を見せて早歩きで去っていく。 「ごめんねぇ、アーちゃんたら無愛想で」 「昔から不器用なんだよねえ。あれ、ただ気恥ずかしいだけで、きみたちのことは認めてるはずだから悪く思わないであげてね」 アカネ先輩とは対照的に、アオイ先輩とコウキ先輩は私たちに近づいてきて、耳打ちしてくれた。 それを聞くと、なんだかほっこりしちゃうな。 私たちは顔を見合わせて、くすくすと笑みが零れる。 「なにやってんだ、早く行くぞ!」 「はーい、今行くわよー」 「お呼びが掛かっちゃった。じゃあね、フィアちゃん」 アカネ先輩の呼び掛けに、にこにこしながらアオイ先輩は応え、小走りで追いついていく。 コウキ先輩も同じく……そして、小さく私たちに向けて手を振りながら。 「おい一年っ! 次はこうはいかねーからな! 一回勝ったからって、調子に乗るなよッ!」 アカネ先輩は、ビシぃっと左手の人差し指を私たちへ突き立て、勢いよく言の葉を発する。 単純な勝敗にのみ拘らず、決して慢心はするなという後輩に向けたアドバイスだね! 「はいっ、ありがとうございましたっ!」 そんなアドバイスには、せめてもの感謝の気持ちを表すよ! 私は深々と頭を下げて、いつまでも先輩たちの背中を見送った。 胸を貸してくれた先輩たちに、精一杯の敬意を!
/443ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加