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差し出した手は、何かを掴むことはなく。
「あはは……ごめんね。いきなり図々しかったかな」
渇いた笑いと本心とともに、ただ引っ込めることしかできなかった。
それくらい、突き刺さるように痛かったんだ。ヤミナの視線が。
「フィ、フィア……もう行こうよ」
私の背に隠れていたカレンも、ピリピリした空気を察して、また耐え難くなったみたいで、袖をくいっと引っ張ってくる。
未だ、ヤミナの眼はするどく尖っている。
事情はわからないけど……今日はこれ以上の進展は望めなそうだ。
「……じゃあ、また来るよ。今度は、もっとたくさんお話ししようね」
別れ際に手を振りつつ、そんな言葉を残してヤミナの前から去っていく。
表情は、最後まで笑顔のまま。
去り際に見たヤミナの顔は、なんだか少し寂しそうで。
またすぐに窓の方を向いて、外を眺めているようだった。
「な、なんなのあのヤミナって子……何言ってるのかよくわかんないし、フィアにあんな態度取るなんて……!」
席に着いたカレンは、いつもの穏やかな様子じゃなくなっていて、少しきつめの口調になっていた。
きっと怒ってくれてるんだ。私のために。
……でも、そういうのはよくないよ。
「ううん、いいの。今回は、ちょっと私が無神経過ぎたんだよ」
「そ、そんなことないよ! だって、だってフィアは……」
「ふふっ、ありがと。でも、本当にいいの。私なら大丈夫だから……ね?」
声を荒げたカレンの頭を優しく撫でて、諭すように語り掛ける。
すると、素直に落ち着いてくれた。
まだ納得していないみたいだったけど。
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