第1章

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―――我が人生ながら、ろくでもなかった。 私は、両親の顔を知らない。 物心ついた時には施設の園長先生とバイトの先生、それに大体同じ境遇の"可哀想"な子供達と一緒だった。聞けば、施設の前に捨て置かれていたそうだ。 噂では母は身籠った末に恋人、つまりは父に捨てられたとか。父はそんな怒り狂った母に背中をぶすりと刺されたとか。その母は最後泥酔したまま川に溺れて溺死したとか。 ちなみにこれを話したのは近所にいた酔っ払いのおじさんである。勿論、真っ赤な顔でゲラゲラ笑った後に死ぬほど吐いて顔を真っ青にしていたおじさんの本当か嘘かも定かではない戯言なんて信じるだけ馬鹿馬鹿しいし、大体それなら私の両親は犯罪者で間抜けな死に方をした母に、身籠らせたクセに見捨てた最低な父ということになってしまう。 流石にそれは嫌なので、きっと私の両親は幼い私を産んで何かの事故に巻き込まれて同時に逝ってしまっただろうと、そう思うことにしている。 例え「育ててくださいお願いします」と赤子の私に手紙の一つも添えなかった薄情な親達だとしても、だ。 次は中学生の時、一人の男子が好きだった。 同じクラスの席が隣だった。クラスメイト以上友人未満の関係性で、授業中たまに話し合ったりした彼に当時の私は何故か恋をした。 よくは分からないが「彼は私の運命の人に違いない」と信じ込んでいた。何故そんな乙女思考だったのか、当時の自分の頭をカチ割って見てみたいぐらいだ。 その男子にある時話したいことがあると放課後に呼び止められた。 これは、と当時の私は期待した。 あれか、とうとうお付き合いしたいとかそういうあれか。無駄に期待していた私に、彼は言った。 「俺、男が好きなんだけど……どうしたらいいかな」 いや、知らねぇよ。 何故、好いた男からゲイの相談をされなければならない。 失恋と同時に言い様の無い何かを味わった初恋は産声を上げることなく溝に捨てられ、残りの中学生活は彼の恋の相談(ゲイの)相手になっていた。 恋人が出来ると私の元に嬉しそうに報告してきた彼は可愛かったが、そこから男性同士のやり方について聞かれたり、どうしたら喜んでくれるかとか乙女より乙女な彼の性事情まで聞く羽目になったときは考える人のポーズを一時間ばかりしてしまった。 とりあえず、インターネット使って自分で調べろよとだけ言いたかった。
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