第1章

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そうなると私の脳内は「未来の自分が何をしているか」なんて課題よりも、どうやって死ぬか、凶器は、時間は、死ぬ前に終わらせておくことは、などといった数時間先の物騒な未来を作文に隙間無く書き記していく。ちなみに有言実行がモットーだ。 授業終了の鐘の音にハッと我に返り手元を見れば数枚に渡ってずらりと並んだ真っ黒な文字の列の大群。軽くホラーだったのでそれは提出しなかった。 担任のおじいちゃん先生が見れば心臓が止まるかもしれないと、人生最期くらいは他人に優しくしようと思ったのだ。ちなみに作文と猛烈にカビの生えまくったパンはいじめリーダーの鞄に忍ばせておいた。 人生最期くらい、仕返しをしようとも思ったのだ。 さて、どうやって死のう。 首吊りは失禁したり眼球が飛び出たり、死んだ後が汚いらしいので却下。薬物死は、まず薬がよくわからない。火事や電車は人に迷惑がかかる。飛び降りは高いところに登るのが面倒。練炭が一番苦しくないと小耳に挟んだが車もないしまず用意するのがだるい。だってあれ、隙間という隙間にガムテープとか貼って密閉しないといけないという。やだ、今から死ぬのにそんな無駄な体力使いたくない。 結果、シンプルに手首を切って出血死ということにした。 出血死ということは中々死ねないかもしれないがその意識をさ迷う瞬間にまた碌でも無い過去を振り返るのもいいだろうと考えた。痛いのは、すっごく嫌だけど。 学校から帰ってきて鞄は部屋に放り投げて真っ直ぐ浴室に向かった。勢い良く浴槽に水を溜めていく。ジョボボボ。人生最期の音がこれか、と少し残念な気もする。 たっぷりと水が溜まり、やがて溢れていくのを確認してから剃刀を握る。小さい刃は私の手首くらいしかない。 ―――これが、今から私の命を奪うんだ。 そう考えるとぞくりとした。 恍惚ではない、紛れもない恐怖だ。殆ど衝動的でまるで計画性もない自殺だから死の恐怖を感じてしまえばそれで終わり。まさに寸前でそれを感じてしまった私はごくりと生唾を飲み込む。イメージとしては恐怖そのものを飲み込んで消してやろうとしたのだが、果たして、それは効果があった。 ゆっくりと左手首を水の中に沈めていく。 剃刀の刃を、優しくそっと添わせた。 「おとうさん、おかあさん」 名前も顔も知らないけど、私親不孝になります。ごめんなさい。 「 さようなら 」 私は、思いっきりその刃を、引いた。
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