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「掲示板、見るか。」
誰もいない講義室でそう呟くと、私は重たい足踏みで学校屋上へ向かった。そこに掲示板があったからだ。校舎を出て庭園を通ると、庭の階段をのぼって屋上に着いた。風が強かった。外から眺められる景色に木々はほとんどなく、大学の周りは高い建物ばかりのようだった。近くには学生寮があり、少し歩いたところではコンビニがある。さらに遠くを見ると高層ビルが何軒か建っていて、それから飲食店、スーパーや他の店もあった。こうして見ると、あまり意識はしていなかったがやはりこの町も都会化が進んでいるようだ。
もし今日の一限が本当に休講であれば、図書室で次の講義の予習をしておこう。そう思って三?四年用の掲示板を見た時、目の前にあの人が映った。彼だった。一瞬、私の視界から掲示板の存在が抹消されたようだった。
「おはよう、元気か。」
彼は私を見ずにいつも通りの態度を振る舞った。私も彼を見ずにこう答えた。
「うん、元気だよ。夏風邪には気をつけてね。」
「・・・・ああ。」
そこから会話が途切れた。私は気まずい雰囲気から逃れるようにして別の話題をふった。
「昨日、掲示板見るの忘れちゃって・・・・今日の一限が休講だって知らなかったの。」
と、掲示板を見ながら言った。やっぱり今日の精神分析学は休講だったようだ。
「そうか・・・・。俺も、昨日は掲示板を見なかったから、今見てみたら二限と三限の学校演習Ⅳも休講らしい。」
「・・・・そう、珍しいね。あなたがドジるなんて。」
初めて会ったときから私は彼が忘れ物をするところなんて見た事がなかった。彼はとても真面目な人で、いつもしっかりしているからだ。それなのにどうして彼は昨日掲示板を見ていなかったのか。もし、私と同じ理由だったら・・・・なんて、期待しても無駄だろうけど。人間関係を築けば、出会いがあれば必ず別れもある。私たちも例外ではなく、ただ、必然的に別れるだけに過ぎないのだから。
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