第1章

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 「あの、さ」  突然彼は私を見てそう言いかけた。私は少しだけ後ずさりしてしまった。だけど、私も彼を見てこう言った。  「・・・・何?」  いや、問いかけた。やはり私は彼に別れを告げられても・・・・彼を拒絶する事なんてできない。  「俺・・・・学校の先生になりたいんだ。」  彼は真っすぐに私を見てそう言った。まるで、私にきもちをぶつけるかのように。これもまた珍しかった。いつも冷静な彼が感情的になるなんて。それに、私は彼の将来の夢を知っているし、こうしてあらためて言われる必要はないはずなのに。  「うん、知ってるよ。あなたならきっと良い先生になれると思う。」  本当に、心の底からそう思う。彼は他の教員志望の学生よりしっかりしているし、真面目な人だから・・・・それに頭も良い。確か聞いた話によると、彼は一般入試で上位をとって特待生として入学したんだっけ。しかも彼は二カ国語も自由に話せると聞いたこともある。何故かというと、彼の父親はアメリカ人で日本人の母親とのハーフで彼は両親の影響からか、子どもの頃は英語しか喋れなかったらしい。日本語を覚えはじめたのが中学生からで、今となっては何の不自由もなく日本語と英語でも会話できるというのだから、本当に凄い。それなのに彼は一度もそれに関して傲慢な態度をとった事がなく、自慢しているところも見た事がない。彼は父親似で外国人のような容姿をしているのだから、ハーフだろうとすぐにわかるのに、私は彼がバイリンガルだという事は訊くまでわからなかった。それだけ彼は誠実な人なのだ。少なくとも、私はそう思って疑えない。  「俺、最近不安なんだ。自分が本当に学校の先生になっていいのか、わからない。」  と、彼は眉を寄せて苦しそうに言った。意外だった。彼がそんな事を言うなんて。  「・・・・え、どうして」  私は呟くように訊いた。だけど、心底驚いていた。何故なら彼はもう既に国の教員採用試験に合格していたからだ。彼はその試験を在学中に受け、この間やった一次試験の合格通知をもらっていたと聞いたのに。  「君が夢を諦めているのに、俺だけ叶えていいのだろうか。」  「・・・・・・・え、何を言っているの」  私たちは互いに質問を質問で答えていた。彼は一体何を言っているのだろう。私に夢なんて、ないはずなのに。
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