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「君は、スクールカウンセラーになりたいのだろう?」
と、彼は私にもう一度訊いた。私は黙っていた。そうやって訊かれてしまうと、私にまで彼の不安が伝わってくる。もしかしたら、今は覚えていなくても、私は無意識の内にまだ夢を捨てきれていないのかもしれない。子どもの頃に何も考えず言っていた花屋の夢を今になってぐずぐず思ってしまうのは、別の理由があったからかもしれない。私は「花屋」ではなく、本当は「スクールカウンセラー」の夢を諦めたくなかったのかもしれない。色々考えたら、私はなんだか納得したように彼に頷いてしまった。
「本当は・・・・どうか、諦めないで欲しい。俺は君と一緒に頑張りたいんだ。この前別れようとしたのは、君が俺なんかに構ってないで自分の将来を考えて欲しかったからなんだ。ずっと考えていたんだ。どうして君が夢を諦めたのか。俺のせいなのか。そうなら君には俺の存在はいらないから・・・・」
「違う!あなたのせいじゃない!!」
私は彼が言い終わる前に叫んだ。少しだけ、喉がむず痒い感じがした。こんな風に感情が高ぶって叫んだのは何年ぶりだろうか。だけど、私は彼の言葉を聞いて嬉しくなった。彼は私を嫌いになったから別れようとした訳ではないとわかったからだ。
「俺は・・・・君の幸せを願っている。君が大好きだから、ずっと幸せな人生を送ってほしいんだ。それなのに、もし俺が君の将来の夢を壊してしまう程の悪い男だったらなんて思うと・・・・恐ろしくてたまらなかった。」
私は久しぶりに彼の涙を見た。世間はこのきもちを純愛と呼ぶのだろうか。私も彼の幸せだけを願って付き合っていた。彼にとって別れが彼の幸せに繋がるとしたら、私もそれに耐えようと思っていた。
何故か、私も泣いていた。
「・・・・ありがとう。」
そして彼のおかげでやっと思い出した。そう、やっぱり私はスクールカウンセラーになりたいのだ。そう決めていたのは高校生の頃だったのに、どうしてここまで忘れていたのだろう。あんなに真剣に考えていたのに。だから彼と一緒に、教育学部で有名だったこの大学に入ったのに。私たちはずっとお互いを応援してここまで来たというのに。
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