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毎年九月。父の故郷のお祭りの数日間。
私は父と母と三人で、父の生まれ故郷であるこの町に遊びに行く。
いや、遊びに行くといっても、それは父だけだ。
父は、私と母を置き去りにして町へ繰り出してしまい、母は祭りの食事の準備で町を走り回っている。
馴染みのない田舎町。
一人ぼっちの私に、祖父と祖母は、お祭りに行っておいでと、お金をくれる。
出店はにぎやかで、美味しい物も、楽しいお店もあるんだと思う。
だけど、そのお金は使ったことがない。
私はお祭りに行かず、その小さな港町で行われている年に一度の喧騒から抜け出して、川の上流の方へ向かう。
川は途中で他の川と合流し、そこから私は、私が来たのとは別の川を、今度は下流へ下っていく。
それが海までに行く途中。
川は木々の生い茂る林へ突入し、道は細くなる。
それでも林の中の道を進むと、少しだけ開けた小さな空き地に出るのだ。
誰かの私有地なのかもしれない。
だけど、彼女は毎年そこにいた。
「リコリス」と名乗ったその声を、私は忘れていない。
本名かどうかなんてどうでも良い。
最初に出会ったあの夜も、彼女はまるで私を待っていたかのようにそこにいた。
リコリスはとても綺麗だ。
大きな目、濡れたまつ毛、黒い髪。
「まるでお人形みたい。」
そう言った私の言葉に、リコリスはこう言って返した。
「あなたもお姫様みたいよ。」
お姫様。
私の学校での呼び名だ。
私はそう呼ばれるのが大嫌い。
私の赤っぽくて茶色い髪、リコリスよりもずっと白い肌、灰色の目。
生まれつき持った、金色の髪と青い瞳を持つ母から譲り受けた私の身体の特徴。
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