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「ねぇ、あれ、持ってきてくれた?」
「うん。持ってきた。」
地図。
去年、リコリスが私と一緒に見たいと言っていたものだ。
私が教科書から切り離して持ってきたそれを広げると、リコリスの顔が輝く。
「ねぇ、ここがどの辺だか分かる?」
「うんとね、ここ。」
私はリコリスが夢中になって見ているこの国の地図、ちょうど東北地方と呼ばれる場所の一部を指差した。
「こんなところにいるんだ。それにしてもずいぶん大きな国なのね。」
興奮した様子のリコリスを見て、私は含み笑いを浮かべると言った。
「ねぇ、世界地図も見て。」
さっきの地図は縮図の関係で大きく見えるだけだ。
世界はもっと広大なことが上手く伝わったようで、リコリスが驚いている。
「こんなちっぽけなところにいたのね、私達。」
「うん。ねぇ、リコリス、前から聞きたかったのだけれど、あの……」
私はそこまでは言えたが、次の言葉が、なぜか言いにくくて仕方が無かった。
リコリスは、一体どこに住んでいて、どこの学校に通っているのだろうか。
リコリスと、いつでも気軽に会えると言う関係になりたい。
だけれど、リコリスにその言葉を言おうとすると、私は決まって何も言えなくなってしまう。
リコリスは、ほとんど何も物を知らない。
自分が住んでいるはずのこの国のことも、世界の広さも。
私はそれを不思議に思う。
だけど、それを彼女に聞くこと……彼女の深い部分へ踏み込むのを、私は躊躇っているのだろうか。
……いや、そうではない。
だけど、やっぱり聞くのはやめよう。
多分、一年に一度会えるから、こうして会えるのが大切だと思えるのだ。
七夕の、有名なあの二人のように。
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