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「なぁ、クロ」
神谷さんが、静かな声で語り掛けるように呼んだ。
「お前、俺が嫌いか?」
怒っている訳でも、冷たい訳でもなく、その声は、とても優しく穏やかだ。
「……嫌い…だと思います…」
『嫌い』
そんな神谷さんの声を聞いて、言い切る事が出来なかった…。
「……そうか」
それだけ答えると、神谷さんは泣いている俺を抱き締め、あやすように背中を優しく撫でてきた。
倒れ込むような形で抱き締められ、神谷さんの肩に顔を埋める。
だから、神谷さんがどんな顔をしているのかは見えない。
けど……。
「………」
「………」
俺の背中を撫でる手が、とても優しい事だけは分かった。
…………この人は、何がしたいんだろう。
どうしたいんだろう。
どうして……。
こんな風に、気まぐれに優しさを見せるんだろう……。
どうして、こんなにも優しく、俺に触れてくるんだろう。
どうして、俺は…。
この手を振り払えないんだろう……。
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