新月

12/25
前へ
/331ページ
次へ
「え、ちょっと待って!」 到着音が鳴り、扉が開く。 「望月さん!?」 俺の呼び止めも無視して、望月さんは、エレベーターを下りてしまった。 それと入れ替えに、数人の人達が乗り込んで来る。 追い掛けるタイミングを失ったまま、エレベーターの扉が閉じてしまった。 ………何で? 俺、気付かないうちに、何か酷い事したのかな。 だとしたら、後で謝らないと。 やる気で膨らんでいた気持ちが、またどんどんと萎んでいく。 本当に、自分が嫌になる。 相手を傷付けておいて、その理由が分からないなんて…。 自分の愚鈍さが情けなく、そして腹立たしい。 楽しそうに会話をする社員の人達を目の前に、何となく感じる居心地の悪さと、自己嫌悪に俯き、爪痕が残るくらい、両手の拳を握り締めた。
/331ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2270人が本棚に入れています
本棚に追加