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*新月・3*
「………」
トイレに席を立った俺は、手洗い場で蛇口を捻ったまま、流れ落ちる水を呆然と眺めた。
あれから、何度か望月さんに謝ろうとしたけど、タイミングが合わず、話すら出来てない。
タイミングが合わなかったのは本当の事だけど、何だか、少し避けられているようにも感じていて、気持ちがどんどんと下降していく。
……やっぱり…嫌われたんだろうか…。
望月さんの態度が、何処かよそよそしかったようにも感じた。
あの時、望月さんが傷付くような事を言ったりしたんだろうか。
思い返しても、どの言葉が望月さんを傷付けたのかが、俺には分からなかった。
確か、差し入れの話をしていて…それから……。
「資源の無駄使い」
「……!」
急に話し掛けられ、身体を竦ませた俺の背後から伸びて来た手が、キュッと音を立てて蛇口を閉める。
驚いて顔を上げると、俺の真後ろに立つ片瀬さんと、鏡越しに目が合った。
「お疲れ様。ボーッとしてたみたいだけど、大丈夫?残業続きで、バテバテ?」
「あ…いえ……すみません」
笑い掛けてくれる片瀬さんに、思わず俯いた。
『神谷さんから、どこまで聞いたのか』
その事を、まだ確かめられていなくて、言葉で説明出来ない後ろめたさと不安に、顔を上げる事が出来ない。
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