新月

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「ありがとうございます…」 鼻を啜り、お礼を言うと、片瀬さんは苦笑して、「どう致しまして」と返してくれた。 「……心に出来た傷ってさ」 ハンカチで、全ての涙を拭いてくれた片瀬さんは、何の前触れもなく、急に話をし始める。 「新月と似てるって思わない?」 「……新月…ですか?」 話の内容が見えなくて、ジッと片瀬さんの目を見つめる。 「そう、新月」 俺に、そう返した片瀬さんは、いつもの調子に戻っていて、少し揶揄うような笑みを浮かべた。 「新月ってさ、見えないでしょ?ちゃんと夜空には存在してるのに、まるでそこに存在してないように見える」 でも、語る片瀬さんの目の奥には、真剣な感情が見える。 あぁ……神谷さんが言っていた、『目を見ろ』っていうのは、こういう事なのかもしれない…。 上辺だけじゃ分からないモノが、そこから見えるような気がした。 「それって、心の傷と同じじゃない?傷を負っている人には分かるし、感じられるけど、他の人にはそれが見えない。目に見えないからね。存在すら分からない」 「存在が…見えない…」 あぁ、成る程…。 片瀬さんの言っている事が、段々と分かってきた。
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