新月を手折りて

望まない再会

＊望まない再会・1＊

再会は、突然だった。

二度と会わないと思っていた相手。

二度と、会いたくないと思っていた人……。

大学を無事に卒業した俺は、広告代理店に就職が決まった。

実家を出て、一人暮らしの準備に追われつつ、忙しい日常の中で入社式を迎えた俺は、そこに来て人生の選択を間違えた事にようやく気付いた。

満開だった桜が、風に花びらを舞わせる季節。

式の途中、見覚えのある顔を見つけて、心の底から凍り付くような、そんな生きた心地がしない思いを、人生において晴れの舞台である筈の今日に味わう事になるなんて、誰が予想出来ただろう。

向こうは俺に気付いていないようで、真面目な顔をして社長のスピーチに耳を傾けている。

張り付いたように動かせない視線を、無理やり引き剥がし、なるべく顔を見られたくなくて俯く。

どうしよう……。

どうすればいい？

まさか、こんな所で再会するなんて…。

じわりと滲み出た嫌な汗が、つぅっと背中を伝い落ちる。

過去の悪夢が、壊れた映像のように部分的に…頭の中で蘇る。

『嫌っ…！やめて下さっ…！！』

マイクを通した社長のスピーチの声が、まるで耳を塞がれているかのように、酷く遠くに感じる。