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*消し去りたい過去・1*
俺が神谷さんに出会ったのは、高校の入学式だった。
『出会った』っというのは、些か語弊があるかもしれない。
壇上に立ち、生徒会長として挨拶をする神谷さんを見たのが、俺の中での『最初』だった。
品の良さを窺わせる姿勢の良さ、そして凛とした表情に、詰まる事なく滑らかに言葉を紡ぐ声。
今まで出会った事のない、凡そ凡人には醸し出せないオーラを持った神谷さんに、一瞬で目を奪われた。
こんな人が、現実に存在するのか…。
そんな事を心の中で呟いたのを、今でもハッキリと覚えている。
それぐらい、神谷さんの第一印象は鮮烈だった。
そう感じたのは俺だけじゃなかったらしく、校長の挨拶の時は、あんなにも騒いでいた他の生徒達も、まるで示し合わせたかのように静かになって、会場である体育館の中、聞こえてくるのは、神谷さんの涼やかな声だけだ。
『静かに』とも、『喋るな』とも言わなかったのに、神谷さんは、それらの言葉を使う事なく、声で、目で、存在で皆を黙らせてしまった。
凄い……こんな人、初めて見た。
先生の中にだって、こんな人はいない。
「共に学べる事を、心から嬉しく思います。ご入学、おめでとうございます」
そう締め括り、穏やかに微笑んだ神谷さんの笑顔。
こんなにも綺麗に微笑む人を、他に知らない……。
拍手するのも忘れ、壇上から去っていく神谷さんを、見えなくなるまで目で追い掛けた。
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