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『痛っ…!む…りぃ……嫌ぁっ…!』
気分が悪くなって、咄嗟に口元を押さえると、隣の奴が小声で心配そうに声を掛けてくれた。
「……おい、大丈夫か?」
俺と同期の新入社員の彼は、俯きがちになっている俺の背中に掌を当てて、様子を窺うようにして俺の顔を覗き込んでくる。
「……大丈夫。ありがとう」
その事で、ハッと現実に戻った俺は、心配そうな同期に無理やり笑って姿勢を正した。
人に触られるのは苦手で、必要以上に近寄られるのも、正直辛い。
普通に話したり、生活するには何の問題もないから、つい忘れそうになる。
人と触れ合う事が、苦痛以外の何ものでもないという事を。
さっきの、背中に触れただけの同期の手でさえ、親切心からの行動だと分かっているのに嫌悪感を抱いてしまう。
相手に、意図するものがあったとしても、なかったとしても関係なく、だ。
自意識過剰、と言われてしまえばそれまでだけど、それでも身体や心が勝手に反応してしまうのだから、俺自身、どうしようもない。
それもこれも……。
全部……全部、あの人の所為だ。
「………皆さんの素晴らしい成長と、活躍を、心から願い、祝いの言葉とさせていただきます」
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