第3章 リードの要否

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「今日の喜一君、すっごい元気な気がする」 「そうですか?」 俺の抱えている顧客の数はかなりのものだ。 本当に申し訳ないけど、予約を一ヶ月程度待ってもらわないといけない場合のほうが多い。 芸能関係の人を顧客に抱えていなくてこれなんだ、うちのトップでアイドルのスタイリングも任されている人間や、スポーツ選手をその顧客に抱えている奴らはもっと忙しい。 カットしか出来ないなんてこともザラで、俺はそれに疑問を感じるからこれ以上自分の知名度を上げようとは思わない。 俺を指名してくれるお客さんは出来上がりまで、しっかり自分で仕上げてあげたいから。 「来月の時はカラーリングもしようかなって」 「いいですよ。今、どんな色が良いのか伺って、予約して頂いた時にその色でってスタッフに指定しておきますよ」 「ホント?」 カットとスタイリングまでは出来ても、さすがにカラーまでは難しいから、今カウンセリングも兼ねて、次の来店時にスムーズに取り掛かれるようにしておこうと思った。 今じゃあまり言われなくなったけど、カリスマ美容師なんてテレビで取り上げられていた時はそれこそ死にそうに忙しかった。 腱鞘炎になりそうなほどで、一日に何人カットしていたのか覚えられないほどだった。 そのブームが去った後もこうやって継続して俺を指名してくれる彼女は大事な顧客のひとりだ。 あいつも 元彼も俺をずっと指名してくれていた。 話もあったし、顔も好みだったけど、だからといって恋愛対象としては見ていなかった。 閉店間際の来店して、いつもは近くにいるアシスタントがいなくなったほんの一瞬 手つきがエロい なんて言われて、驚いたなんてもんじゃない。 そして俺の動きの止まった指を辿るその手に一瞬で落ちた。 運命だ、とか思えていたのに。 本当に好きだったのに。
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