第3章 リードの要否

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浮気されていたことにも、あいつの心がいつから俺のほうを向いていなかったのかも、全然気が付かなかった。 「なんか良いことあった?」 「えー? ないですよ」 「あったあった! 絶対にあった! ずーっと喜一君を指名してる私にはわかる」 本当にない。 どちらかと言えば、運命だと思った恋がただの普通の二股で、男同士の痴話喧嘩なんてみっともなくて、頷くしかなかったバカなゲイの失恋があった。 良いことなんてひとつも……。 「あーあったかも?」 「ほらっ! 何?」 「……朝飯が今日はゆっくり食べられた、ことくらいかな」 それと、でかくて日本語のわかる大型犬がうちにしばらく住み着いたことくらいだ。 昨夜、朝起こすようにと言ったことをしっかり覚えていたその大型犬が、ちゃんと起こしにやってきてくれた。 朝が苦手な俺はそのおかげでしっかり朝飯も食えて、頭もちゃんと働いてくれている。 ここ最近は失恋の痛手で朝がとにかく起きられなかった。 起きてもひとりであのだだっ広いキッチンで朝食を作る気になれなくて、コーヒーで済ませてしまっていた。 「え? それだけ?」 「朝、コーヒーだけだと頭痛くなりません?」 「うーん、そういうもの?」 わからない。 その頭痛がコーヒーのみの朝食のせいなのか、それともやたらと広く感じてしまうあの部屋のせいなのか。 そしてもうひとつ、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけれど、二人用のあの部屋はやっぱり二人で住むのにちょうどいい広さだった。 それが例え大型犬であってもだ。 「今、カラーリングのサンプル持って来ますね」
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