第4章 でかいアホの子

3/5
前へ
/293ページ
次へ
「喜一、今度連れて来てよ」 「無理」 「なんでぇ」 「俺がゲイなの知らないから」 ゲイが珍しくない職場だから、カミングアウトしている同業者もいる。 でも俺はしていない。 別に理由はないけど、自分から率先して言う必要もないと思うから。 「ふーん……言わないの?」 「言う必要もないでしょ」 「ふーん……」 そんなに長居するつもりは瑞樹だってないだろう。 寮として会社から援助が出てはいるから俺は、まぁ構わない……こともない。 でも瑞樹にしてみれば、先輩の家にずっといるっていうのは気が引けるだろうし、やっぱり窮屈だろうから。 ペット扱いなんて冗談でも言っておけば、向こうも俺もある程度気遣いは必要ないかな、とも思うけどさ。 「でも安心した」 「?」 「喜一、失恋したばっかでかなりの痛手っぽかったのが、今、そうでもないから」 「……」 そりゃ落ち込むよ。 止めていた煙草をまた吸い始めるくらい、そしてアホな大型犬が家にいるだけで和めるくらいに。 「……」 そして気が付いた。 俺、この店に来てから一本も煙草吸ってない。 吸うってこと自体を忘れていた。 普通にしていた。 あんなに辛かったのに、指先とか唇が寂しく感じて、それを紛らわすことに一生懸命だったのに。 「今日はもう帰るわ」 「えー? まだいいじゃん」 「飲みすぎた」
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8979人が本棚に入れています
本棚に追加