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瑞樹はいつもと何も変わらない表情で、黙って立ち上がった。俺は“ついで”という部分を強調し過ぎて、気を悪くしたのかと心配になって、その表情を目で追ってしまう。
目で追うことに集中し過ぎて、その顔が自分にキスが出来そうなくらいに近付いてきたことに驚くのを忘れてしまった。
大型犬はキッチンテーブルに身を乗り上げるようにして、両手で支えながら、一度小さく鼻をスンと鳴らした。
「!」
「あ、ホントだ。少ぉぉしだけアルコールの匂いがする」
びっくりした。
声も出ないくらいにびっくりした。
普通酔ってますって言ったからって、その確認をするのにこんなやり方をする奴なんていない。
ある意味これを女相手にやるなら、そこには何か意図があるって思う。
そのくらいの距離に急に来られて、何も反応出来なかった。
「お前ね……」
「?」
その顔でこれだけ人懐こくて、こんなことをナチュラルにやられたら、そりゃ落ちるだろう。
瑞樹とどうこうなることは可能性ゼロってわかっている俺でさえ、心臓がバクバク言うんだから。
「何でもない」
「?」
ゲイじゃなく、普通の男同士、先輩と後輩の場合、今の俺の反応が正解か不正解なのか、それだけを考えていた。
ただ少しくらい反応が不自然だとしても、アルコールという大義名分がどうにかしてくれると思いたい。
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