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「これ食ったら、俺はもう寝るから」
「はい! 食器洗いは任せてください!」
「……食洗器にセットするだけだろ」
最新式のキッチンには食洗器も付いている。
そしてそれを瑞樹はすごいすごいと褒めちぎりながら、グリーンピースを美味そうに食べていた。
「喜一先輩の彼女って幸せですよね~」
「?」
「だって、こんな美味い飯作れる彼氏なんて、最高じゃないですか」
最高
ではなかったらしいよ。
少なくともあいつには。
俺は運命だと思ったけれど、あいつは俺がそんなことを思っているなんて知りもしないどころか、その気持ち自体を疑っていたんだから。
だから素直に褒められても苦笑いになってしまう。
そもそも彼女がいたことはないし。
瑞樹の頭の中で俺は至ってノーマルとされる恋愛をしていることにも、それを少しも疑わずに素直な瑞樹自身にも苦笑いだ。
「なぁ、なんで俺って彼女いる設定なの?」
「え? だって……」
確か浩介は肝心な性癖に関しての部分は言わなかったけれど、俺が今はフリーなんだから、瑞樹をここに置いてやれよ、みたいな話し方をしていた。
なのにこいつは、何故か彼女がいるという設定を不動のものとして、ずっと話している。
本人は無意識だったのか、うーんと考え込んで、口に飯を運ぶ手を止めてしまった。
「あ! だって喜一先輩、なんか色気あるし」
「は、はぁ?」
「うーん、なんて言うんでしょ。フェロモン……みたいな……」
「アホ……そんなんないわ」
「いやっ! 遊び慣れしている俺が言うんだから、マジです! そういうのを嗅ぎ分けるのだけは得意です!」
「…………それ全然自慢になってないよ」
俺の言葉に目を丸くして驚いていることに驚く。
それにそんなフェロモンが出ていたのなら、二股なんてされないだろって、呟きは心の中にだけ留めておいた。
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