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赤で揃えた調理器具はけっこう気に入っていた。
値は張るけどその分、質がいいから長く使える。
勿論そのためには手入れも必要だけど。
「おはようございます!」
「……おはよ。何? 出掛けるの? いってらっしゃい」
瑞樹がうちに居候して初の休日、大型犬のこいつはそのでかい図体でリビングの隅に正座をして、外出用の服を着て髪もセットし待機していた。
散歩に行く前に良い子で待ってますアピールをしている犬のように。
大方その理由は検討が付いている。
昨日丸焦げにしてくれた新品のミルクパン、それを買いに行くのに同行しよう。多分、そんなところだろう。
料理はけっこう好きだから家で食べる時は大概自炊だ。
その際、あのミルクパンは重宝する。
大家族じゃないのだからスープ、味噌汁はあれで作るし、昨日の瑞樹のようにひとり分のカレーを温めるのにも使う。
だからあれがないと案外不便なんだ。
いちいちでかい鍋を出すのも面倒だし。
「……いいよ、俺、買い物ついでに行くだけだから」
「いえ! そういうわけには!」
「お前は週一の貴重な休みだろ? ゆっくりするなり、女の子とデートするなり、明日からの仕事に向けて英気を養え」
「大丈夫です!」
この駄犬は妙に義理堅い性格らしい。
てこでも動かないと、正座している膝の上に置いた自分の拳をぎゅっと更に固くした。
トップは給料も高いけれど、もうひとつ、週二の休みが確保されている。
そうやって目に見えた格差を嫌う人もいるけど、自分の腕でのし上がれるこの世界の仕組みは嫌いじゃない。
実力主義だけれど、アスリートとかとは違って、才能よりも努力でどうにかなる部分が大半だから。
「弁償免除なら、せめて荷物でも何でも持ちます! 下僕としていくらでも使ってください!」
「あのね……本当にいいってば」
「そうはいきません」
「……はいはい。そしたら用意させて」
頑固な駄犬に付き合うより他はなさそうで、朝飯は簡単にサンドイッチにでもして、出掛ける準備を始めることにした。
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