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「なんか店の時と雰囲気違いますね」
「その言い方、ホストになった気分がするんだけど」
店では最先端を意識し続ける。
服も髪も、お客さんがいいなって思う自分でいないといけない。
でも実はそこまでプライベートでは最先端は追い掛けない。
というかシンプルなほうが好きだ。
アクセントを付けるとしたら小物くらいで、髪もそのままナチュラルにしている。
「あ、その指輪いいっすね」
「ありがと」
指にはお気に入りの豹の顔をモチーフにした指輪、口の所には大きな赤い石が嵌め込まれている。
新しいものじゃないし、高級なものでもないけど、豹の顔の曲線が綺麗でこれをしている時はよくその顔を指でなぞっていた。
こういうところにさり気なく気が付いて、さり気なく褒める。
それがまた女の子に受けるんだろう。
褒められて悪い気がする人間なんてきっといない。
あいつも最初はよく褒めてくれたっけ。
いつからだろう、お互いにそういうのに気が付かなくなったのは、なんて思い返してももう仕方がないんだけどさ。
きっと俺の気持ちもどこか空周りで、相手をちゃんと見ていなかったのかもしれない。
夢中になっているような気がしていただけだった。
だから気持ちが自分に向いていないことにも気が付かなかった。
「っつうか、お前、指荒れてる」
「いやぁ、シャンプーとかしてるとこうなりません?」
「そのままじゃ、沁みて痛いだろ」
アシスタントは一日中洗髪しかしないなんてこともザラで、いくら市販のものよりも刺激が少ないとはいえ、ずっとお湯と一緒にその中に手を突っ込んでいれば、油分なんて全部持っていかれる。
ゴム手袋なんて言語道断だから、一度荒れ出したら酷くなる一方だ。
「行く場所追加」
「へ?」
「ほら、行くぞ。散歩」
「あ、はい。あっ! じゃなくてワン!」
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