第7章 意味不明生物

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「先輩って買い物早いですね」 目的の物を買い終わると、ちょうど昼時でパッと目に入ったカフェで昼食を済ませることにした。 「買いたい物が決まってるからな」 「えーでも買いたい物が決まってても、ずっと悩みません?」 「お前が? それとも女の子が?」 アハハと能天気に笑っている。 女友達と買い物に行くこともあるけど、デートじゃないから相手もサバサバした感じだ。 瑞樹が女の子と出掛ける買い物とは雰囲気がまるで違う。 買いたいものがハンドクリームと鍋って時点で、「ねぇ、こっちとこっち、どっちがいいと思う?」という女子定番の台詞は出て来ない。 瑞樹ならニコッと笑って、相手が喜ぶ言葉をいつまでだって言えるんだろう。 でも女性が恋愛対象になったことがない俺は、その台詞を言われた経験がすごく少ない。 それこそ自分の性癖に悩んでいた学生時代にまで遡らないといけない。 「あ! さっきもらったハンドクリーム!」 ランチプレートのサラダを大きな口でパクリと平らげて、まだその口をもぐもぐとさせながら、半分くらいは残っているクリームを出している。 「あ、超良い匂い」 「桜の匂い。その時期に買ったから」 「へぇ」 その季節ごとに変わる匂いをその都度買っている。 手を使う仕事だし、お客さんの顔の近くでその手を動かすわけだから、出来るだけ良い匂いで、尚且つ季節感もあるほうがいい。 たまに気が付く人もいてくれたりする。 本当に微かに香る程度のだから不快に思うこともたぶんない。 「ありがとうございます」 「しっかり塗り込んだほうが良く効くから。っつっても仕事中はそんな暇ないけど。でもこまめに塗っとけ」 「はーい」 って言ったそばから、パパッと塗っただけで済まそうとしている。
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