8995人が本棚に入れています
本棚に追加
ふたりでその方向に目をやると、多分瑞樹よりも年上だろう美人が立っている。
フワフワとボリュームのある無造作な髪型が、大きめのサングラスとのバランスを上手く取っていた。
目元が隠れていても美人は美人、しかもかなりの。
「あ」
「久し振り~元気?」
「んー……どうだろ」
「アハハ、追い出されたって聞いたけど、元気そうじゃん。うちに置いてあげようかと思ったけど」
瑞樹の恋人かどうかはわからないけど、随分親しそうだ。
うちに置くってことは、瑞樹がヒモ生活をしていたことを知っているんだろうし、もしかしたらそういう関係だったのかもしれない。
妙に親密な距離だし。
背の高い瑞樹と並んでもバランスの良い身長、高いヒールの靴を履いていても綺麗に歩けているし、誰に訊いても「良い女」と答えるであろう美人と、絵になるツーショットを作れる瑞樹はある意味すごい。
ふと今まで考えもしなかった、瑞樹と並ぶ女性達がイメージ出来た。
「こちらは?」
「あ、先輩」
サングラスを取って挨拶をした彼女は予想通りの美人だった。
「それじゃあな、瑞樹」
「え? 先輩」
その美人に挨拶をしてから、意味不明生物をそこへ置き去りにして、少し足早にスーパーへと向かう。
同性である俺でさえ、ドキッとさせられる行動を取る、天然タラシの瑞樹なんだ。
今夜はあのままあの美人とどこかへ行くだろう。
別にそれは構わない。
俺は関係ない。
俺はただ住む場所を短期間提供している職場の先輩でしかない。
スーパーで何を作ろうかと考えながら、ふと手が止まった。
ぼんやりと頭の中に浮かんでいた料理がひとり分で作るには少し面倒な物だったから。
鶏肉のソテーにしよう。
それとサラダ。
野菜は少し残っているからひとり分くらいのサラダなら作れる。
一枚でパックされた鶏肉を手に取ると、後ろから顔のすぐ横を手が伸びて来た。
「!」
驚いて振り返ると少し肩で息をした瑞樹がいる。
「俺の分、なしですか?」
にこやかに笑って、買い物カゴに三枚パックされた鶏肉を入れている。そしてそのカゴを奪われてしまった。
「お前…………どんだけ食うの?」
今、合計四枚もそのカゴに鶏肉を入れている大型犬はやっぱり俺には読めない行動を取る意味不明生物みたいだった。
最初のコメントを投稿しよう!