第8章 過去の恋とその残り香

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律儀な大型犬はそのまま本当に俺の荷物持ちとして、夕飯の買い物に付き合い、そのまま家に帰り夕飯を一緒に食べた。 今まで瑞樹が休日をどう過ごしていたのはわからない。 昨日訊こうかと思ったけど 止めた。 ヒモ生活、休日に女の子とデートってなれば、どんなふうに一日を終えるのかは想像出来る。だから訊かなかった。 あの美人は瑞樹とどこか行きたそうだった。 別に俺を邪魔扱いはしてなかったし、感じの悪い対応はされていない。 ただ、瑞樹にたまたま会ったら、そのままどこかへ一緒に出掛ける。それが今まで普通だった。そんな感じがした。 だから瑞樹はよっぽど義理堅い大型犬なんだろう。 いくら鍋が高いからって、律儀に一日俺に付き合おうとする。女ったらしでアホの子だけど 律儀な大型犬。 「どうだ? ピチピチのノンケとの新生活は」 「……その言い方おっさん臭い」 「だってアラフォーだもん」 「その言い方はおっさん臭い上に気持ち悪い」 俺の昼休憩は毎回ほとんどない。 人によっては、休憩時間を確保したスケジュールにするけど、俺は飯が食える時間くらいしか確保していない。 接客業ならどんな職種でもそうだと思うけど、自分の予想したスケジュールで一日を終えられることのほうが稀で、イレギュラーなことがいつだって起こる。 だから休憩をほとんど取らない俺はそれこそほんの数分しか休めないなんてこともある。 今日は午後からのお客さんのリストを確認出来るくらいの時間があるから、随分良い方だ。 だから、そんな貴重な時間に俺の雇い主であっても、浩介にこうやって邪魔されると、自然に眉間に皺が寄る。 それなのに浩介はそんなのお構いなしに俺と向かい合うように椅子に座った。 「外に食いに行けばいいのに」 「そんなに時間ない」 「もっと余裕のある時間設定にすればいいのに」 「そしたらお客さんが一ヶ月以上待つことになる」 仕事熱心と浩介以外に褒められれば喜ぶけれど、この場合は無視だ。
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