第1章 失恋男と捨て犬と

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両手を挙げて大喜びされると前言撤回するのも気が引ける。 とはいえまさか本気で居候する気じゃないよな。 「一晩くらいなら」 「え……ひ、一晩……」 あ、項垂れた。 それこそ世界の終わりが来てしまったかのように項垂れている。 「喜一、いいだろ、うちから寮扱いでいくらか支援するし」 「そういう問題じゃない」 浩介を睨み付けてみても、それがこいつには痛くも痒くもないことはわかっている。 金の問題じゃないんだ。 ゲイの俺がノンケのアシスタントを居候させるなんて、こんな面倒くさいことは本当にお断りなんだ。 「なんでもしますからっ!」 嫌だ、の一言が言えないのは、きっとこの捨て犬みたいな目のせいだ。 「家政婦でもなんでもします! 寮の空きが出来るまでで構いません! っつうか下僕で構いません!」 「はぁ?」 浩介が予想外に面白い展開になったと笑っている。 「ペット! ペットになりますから!」 「お前、アホか?」 「アホじゃなくて、ヒモだったんでペットにも下僕にもなれちゃいます!」 開いた口が塞がらない、とはまさにこのことかもしれない。 でも職場で自分を元ヒモだと公表してしまえるアホの手を、振り払えない俺はもっとアホなのかもしれない。
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