第一話

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 そんなことを思い出しながら、見上げるだけで足の竦むマンションを見上げる。  ため息を零して、教えられている暗証番号を押した。  何度来たって別世界のエントランス。  常駐しているコンシェルジュに、読み取れない笑顔を向けられて、咄嗟に顔を隠す。  見られて後ろめたいことをしていると分かっている。  昔は、本当の私は、こういうことをする女じゃなかったはずだ。  お金のため?  よくも知らない、付き合ってもいない人と、そんなことで繋がるタイプじゃなかったはずなのに。  耳の痛くなるエレベーターから降り、新の部屋の前につくと、いつもと様子が違うことに気がついた。  新の部屋の前、知らない女の人が立っている。  たまに、こういうことがあった。  ――ダブルブッキング。  新には、莉々子だけではないことは重々承知していた。  それに対して、口を挟むこともなかったし、莉々子がその一員に数えられているという意識もなかった。  莉々子のことなんか、名前さえ憶えない程度の相手だ。  飽きられたら終わるし、この主導権を握っているのが新であることは分かっていた。  (あ、そうか……)  だから、行かないという選択肢がないのだ。  終わるも終わらないも、全て新次第。  新との行為の中で、気付かない間に植え付けられていた。  莉々子は新に逆らえない。  きっと逃げ出したくなっても、それすら出来ないのだ。
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