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そんなことを思い出しながら、見上げるだけで足の竦むマンションを見上げる。
ため息を零して、教えられている暗証番号を押した。
何度来たって別世界のエントランス。
常駐しているコンシェルジュに、読み取れない笑顔を向けられて、咄嗟に顔を隠す。
見られて後ろめたいことをしていると分かっている。
昔は、本当の私は、こういうことをする女じゃなかったはずだ。
お金のため?
よくも知らない、付き合ってもいない人と、そんなことで繋がるタイプじゃなかったはずなのに。
耳の痛くなるエレベーターから降り、新の部屋の前につくと、いつもと様子が違うことに気がついた。
新の部屋の前、知らない女の人が立っている。
たまに、こういうことがあった。
――ダブルブッキング。
新には、莉々子だけではないことは重々承知していた。
それに対して、口を挟むこともなかったし、莉々子がその一員に数えられているという意識もなかった。
莉々子のことなんか、名前さえ憶えない程度の相手だ。
飽きられたら終わるし、この主導権を握っているのが新であることは分かっていた。
(あ、そうか……)
だから、行かないという選択肢がないのだ。
終わるも終わらないも、全て新次第。
新との行為の中で、気付かない間に植え付けられていた。
莉々子は新に逆らえない。
きっと逃げ出したくなっても、それすら出来ないのだ。
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