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週末、夜九時。
莉々子は決まって、この人に呼び出される。
あの夜、近づいてきた新に『金に困っているのか?』と聞かれた。
時間の止まってしまっていた莉々子には、すぐさまそれに返事が出来なくて、「イエス」と取られてしまった。
それから気付けば、新の腕の中で揺さぶられていた。
軽薄だと思う。
それ以上に、こんな自分にびっくりしている。
初めて会った。
あの時、初めて声を聞いた。
そんな人の腕の中で、熱くなっている自分に驚いた。
夜九時の約束は、莉々子が"相手ができない"時以外は、破られることはない。
金曜日の夜、十二時。
土曜日になるちょうどの時間にメールが来て、『明日来られるか?』の、八文字。
それに決まって『はい』の二文字で答える。
二人の繋がりは、このたった十文字だけ。
初めて抱かれた夜に、名前は何かと聞かれた。
『莉々子』と消え入りそうな声で答えた時には、新はもう他のことに意識が向いていた。
名前を呼ばれたことは、まだ、一度もない。
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