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気まずい気持ちのまま、新の部屋の前にいた女性に会釈をする。
真っ赤な、身体のラインを強調するワンピースに身を包む彼女は、女性としての自信を誇っていることが窺えた。
品定めされるように向けられた視線に、莉々子は胃が縮こまるのを感じた。
髪型一つとっても、彼女は美容室で整えたように美しく、肌も艶やかだ。
それに比べ、莉々子はいつも黒っぽい地味な色の、身体のラインが分からない服を好んでいた。
髪は、彼女に劣らず胸を隠すほどに長かったが、それは気づけば伸びていたというだけで、緩やかなウェーブは、莉々子が生まれ持った自癖だった。
自己主張を苦手とする莉々子は、そのせいで前の会社でもうまく行かなかった。
内定をもらうまでが戦いだと思っていた自分が、ひどく幼くて浅はかだった。
言われた時刻きっかりに、新の家のドアが開いた。
今日もまた、いつもと変わらぬ柔らかそうな髪を後ろに靡かせて、折り曲げるほど高い背が、ゆっくりと開いたドアの向こう側から現れた。
形の綺麗な富士額に、感情の読み取れない黒目がちな瞳は、細く優しい反転の月型をしている。
傍から見れば、微笑んでいるように見えるのに、その瞳には熱(ねつ)さは零れない。
「入って」
低く甘い声が、広いエレベーターホールに響くと、赤いワンピースを着た彼女と目が合った。
「一緒に?」
彼女が、怪訝そうに新に訊ねた。
「嫌なら帰ってもいいけど」
感情のない返答に、彼女はすぐさま口を噤んだ。
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