第一話

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 気まずい気持ちのまま、新の部屋の前にいた女性に会釈をする。  真っ赤な、身体のラインを強調するワンピースに身を包む彼女は、女性としての自信を誇っていることが窺えた。  品定めされるように向けられた視線に、莉々子は胃が縮こまるのを感じた。  髪型一つとっても、彼女は美容室で整えたように美しく、肌も艶やかだ。  それに比べ、莉々子はいつも黒っぽい地味な色の、身体のラインが分からない服を好んでいた。  髪は、彼女に劣らず胸を隠すほどに長かったが、それは気づけば伸びていたというだけで、緩やかなウェーブは、莉々子が生まれ持った自癖だった。  自己主張を苦手とする莉々子は、そのせいで前の会社でもうまく行かなかった。  内定をもらうまでが戦いだと思っていた自分が、ひどく幼くて浅はかだった。  言われた時刻きっかりに、新の家のドアが開いた。  今日もまた、いつもと変わらぬ柔らかそうな髪を後ろに靡かせて、折り曲げるほど高い背が、ゆっくりと開いたドアの向こう側から現れた。  形の綺麗な富士額に、感情の読み取れない黒目がちな瞳は、細く優しい反転の月型をしている。  傍から見れば、微笑んでいるように見えるのに、その瞳には熱(ねつ)さは零れない。 「入って」  低く甘い声が、広いエレベーターホールに響くと、赤いワンピースを着た彼女と目が合った。 「一緒に?」  彼女が、怪訝そうに新に訊ねた。 「嫌なら帰ってもいいけど」  感情のない返答に、彼女はすぐさま口を噤んだ。
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