第1章

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最悪、最悪最悪。 大辻はしかも私の前の席。 ありえん。 隣の席の美奈ちゃん(24歳彼氏あり)は 「大辻主任カッコよくないですか?! 狙っちゃおうかなあ」 と、コソコソと話して、右の口の端を上げていった。 ちらり、と大辻を見る。 形の整った猫目に、 筋の通った鼻、 これまた形の整った薄い唇に 程よく引き締まった身体、 真っ黒で少し癖毛なのだろうが、 セットしてあるようにも見える。 まあ、見た目は整っているのだろう。 そこで気がつく、なんで (なんで、私、この人の事、こんなに苦手なんだろう。) 雰囲気かも、しれない。 妬みかもしれない。 なんでも要領よくこなす上に、 容姿もこの通り。 そうだ、妬みだ。そうだ。 だって、それしかない。 似てなんか、ない。 似てない、似てない似てない。 フラッシュバックしそうな思い出に急いで蓋をする。 「…ハハっ、あは」 (まだ引きずってんのか、あたし) 『好きだよ、莉緒』 大好きなあの人の、あたしを呼ぶ声。 『ばいば…り、お』 大好きだったあの人の 愛おしい声。
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