第一幕-異世界-

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ーー何故作家を夢見たのか。多分、それは叔父の影響だと思う。俺の叔父は身体が弱く、殆ど寝たきりだった。だから、叔父の手元にはいつも本があった。叔父はいつも優しい笑顔で俺に本を読み聞かせてくれていた。 両親は共働きで殆ど家に居る事がなく、俺はいつも一人で家に居た。そんな時は叔父の家にコッソリと遊びに行って居たのを覚えている。 寂しい時は、本を読んでごらん。 登場人物が温かく迎えてくれるよ。…ほら、もう寂しくないだろう? 優しく頭を撫でながら読んでくれた本の話はいつも決まっていた。一人の少年が旅に出るファンタジー小説。ベタだけど、少し不思議な話だったかな。 叔父が亡くなった時にわかった事だが、いつも俺に読んでくれていた本は叔父が昔書いたものだったらしい。何でも、作家を目指していたものの売れずに挫折したとか。 その時から、俺は作家になりたいって思った。叔父の書いた小説みたいな話を書いてみたい。今度は俺が叔父に聞かせてみたくなるようなそんな話を。 「だー…!まとまらねーっ。間に合うかな…」 ああ、自己紹介が遅れたよな。俺、立花颯斗。時は残酷、成人してから三年は過ぎた。叔父が亡くなったのは俺が小学五年の時だったから、自称作家歴だけは長い。まあ、思い返してみれば高校まで書いたものなんて作文レベルなんだけど。田舎だった実家を飛び出して、今はラーメン屋でバイトしながら1Kの古いアパートで小説を書く日々。 新人賞には出して、一応とある出版会社のお眼鏡にとまり、担当者さんもついた訳なんだけれども。どうも、冴えない日々が続いていた。 俺が座椅子を倒し、床に転がると不意に携帯が鳴る。 呼び出し画面には、「斎藤真純」の文字。俺の担当者さんだ。 「はい、立花で…」 「立花君!締切まで後二日だけど間に合いそう!?」 俺の声を遮るように、斎藤さんは一括した。また機嫌悪いな。編集長と揉めたか、と思いつつ、すみませんと答えた。 「どうもラストシーンがいまいちピンと来なくて、纏まってないんですよ。後二日以内には…」 「もうっ、まだ纏まってないの!?時間ないんだから、今から行くから纏めておいて」 二日以内には終わらせます、と言いかけた瞬間にまた遮れて、一方的に電話を切られる。…いつもこうなんだけど。 「今からって…」 時計を見つめ、俺は大きな溜息をついて携帯を放り投げた。
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