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とりあえず、考えててもわからないので迎えが来るまでビルが淹れてくれた紅茶とクッキーを飲み食いしながら過ごす事にした。
…お、このクッキー凄く美味い。ビルが焼いたのかな。何かの木の実だっけ。香ばしくて、ほんのり紅茶の味もする。最近食ったお菓子の中で一番美味い。紅茶とクッキーに舌鼓を打ちながら、ふと窓の外を見つめる。
「本当に…俺、違う世界に来てるんだよな」
窓の外には城の城壁の他、綺麗に手入れされた庭や、遠くの方には城下町も見える。俺がいつも見てるボロアパートの一室からは到底見れない景色だった。ティーカップをテーブルに置き、どさりとベッドに倒れ込んだ。ふわふわのベッドの感じも、ビルが淹れてくれた紅茶の味も皆ちゃんと本物の感触。
「初めて来たのに、変な感じがする。前にも、俺…こうしてたような気がする」
ふと頭の中を記憶の断片が過る。
小さかった頃の俺。ふわふわのベッドで寝てみたいと言ったら大きなベッドが本当に用意された。馬鹿みたいにはしゃぐ俺と、ベッドに腰掛け優しく微笑む、あの…。
「…っ!」
記憶を手繰り寄せようとすると激しい頭痛に襲われた。目眩や吐き気を覚える程の激しい頭痛。俺は頭を抑えながら何とか身を起こし、飲みかけの紅茶が入ったティーカップを掴み、一気に飲み干した。
「…はぁ、何なんだよ一体…」
少しづつ落ち着いてきたものの、まだ目眩がする。深く溜息を付くとコンコン、とまた部屋の扉を叩く音がした。
「…空いてるよ」
先程とは違い、乱暴に扉が開かれティムロットがご機嫌な様子で俺に飛び付いてきた。まだ目眩がする俺はいきなりの事に対処出来ずにまたベッドに倒れ込んだ。
「アリスっ、おはよっ!よく眠れた?」
まるで猫のように戯れてくる。お前、眠りネズミとか言ってなかったか。何でそんなに元気なんだよ。
「ティムロット…重い」
「ほへ?あ、ごめんねっ」
パッと俺から離れ、バツが悪そうに笑ってみせた。
「あのね、女王様が呼んでるの。アリスと話しがしたいんだって。…大丈夫?行けそう?」
「何とかな…」
よろよろと起き上がる。まだ少し目眩は残っているが大分楽になってきた。
「あまり無理しないでよ?アリスが無理すると女王様が悲しむし。あっ、謁見の間までボクが案内するよ!ここってかなり不親切な造りになってて迷いやすいからはぐれないようにしてね」
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