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ティムロットに手を引かれ、部屋を後にした。時々箒やワゴンを押すハートのエプロンを着たメイドさん達にお帰りなさいませ、と会釈されるもんだからどうもむず痒い。ご機嫌に前を歩くティムロットの巻き毛がふわふわと揺れていた。
「あれ、お前…髪、左側に巻いてなかったっけ?」
「えへへー。ばれたかー。やっぱり何時もの位置じゃないとしっくり来ないよねぇ」
いや、どうでもいいけど。…何でどうでもいい事までに突っ込んでんだ、俺。
「聞きそびれてたけど、お前…女の子だよな?」
「ほえ?やだなぁーっ、ボクはれっきとした男の子だよっ」
なん…だと。
てっきり女の子かと思っていたが実は男の子だった事実。て、事は何か。俺は野郎に抱きつかれ、今こうして手を繋ぐ形で城内を案内されてるのか。全く、アルフレドといい、こいつといい…。俺にそんな趣味はない。
違う意味で頭痛を覚えていた俺を他所に、突然ティムロットがピタリと歩みを止め、くるりと俺の方へと方向転換した。
「ごめーんっ!あのね、ボク、用事を頼まれてたの忘れてたっ!」
「お、おい…」
一方的にそう言い放つと嵐のように去って行った。何なんだよ、一体。ポツンといきなり取り残される俺。
待てよ?ここ、何処だ?確か女王って人が俺を呼んでるからと謁見の間に向かってたんだよな。先程まで歩いていた廊下とか違い、誰も見当たらない。人が居ないせいか、薄暗い印象があった。
見知らぬ場所で一人途方に暮れていた所、不意に声をかけられた。
「…アリス様?」
「アルフレド!」
怪訝な顔をしたアルフレドが立っていた。ああ、良かった。ほっと胸を撫で下ろす。
「それよりアリス様、何故このような場所に?お部屋に居た筈では?」
「女王って人が呼んでるってティムロットが迎えに来たんだよ。謁見の間って所に向かってたんだけど、急に用事を思い出したとか言ってさ。参ったよ」
それを聞いたアルフレドは益々怪訝な顔をした。俺、また何か変な事を言ってんのかな。
「ティムロットが…?アリス様、ここから先はかつて断罪の場と申しまして先代の女王が使用していた処刑場の跡地があるだけで、城の者もあまり利用しない場所です。謁見の間とは真逆の方向に当たります」
「そうなのか?…成る程、暗い訳だ」
元処刑場って…。こんな綺麗な城なのにそんな場所があるのかよ。覚えておこう。
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