第一幕-異世界-

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気を取り直し、インスタントコーヒーを淹れ、再び俺はパソコンと睨め合いを始めた。…どうも、このラストシーンがしっくり来ない。斎藤さんの要望はもっとヒロインとのベタな感じで、だったけど…この物語にはあまりベタなラストシーンは入れたくないんだよな。うーん…今から打ち合わせしてもなぁ。 床に転がったままの携帯に手を伸ばした瞬間、部屋のチャイムが鳴った。…斎藤さんじゃないな、さっきの様子だと会社からの電話だったし。まだ来るには早過ぎる。新聞の集金かな…この前払った気もするし、なんだろう。とりあえず俺は、重い腰を上げドアチェーンをかけたままドアを開ける。 「すみません、立花さん…立花颯斗さんの家はここであってますか?」 「あ、はい…。俺ですけど…」 戸惑いながら答えると、目だし帽を被った作業着のおっさんが小さな箱を俺に差し出した。 「立花ハナエさんからお荷物ですよ。ここに、受け取りのサインをお願い出来ますか?」 なんだ、宅配便かよ。キーチェーンを外して、伝票にサインすると、宅配業者のおっさんは満面の笑みを浮かべて去っていった。…何だか見慣れない宅配業者だな。新しい会社か何かなのか。…気にしてても仕方ないか。 鍵を閉めて、まじまじと小包を見つめる。実家のお袋からだった。一見、祖母からの荷物かと思ったが、そういやお袋の名前は花恵。親父の性になって花と言う文字が被るから嫌だとの理由で荷物とか何かを送る時はカタカナで名前を書くようにしてたっけ。 そんな事を思いつつ、軽い小包を開けてみる。そこには、お袋からの手紙と一冊の古ぼけたノートが入っていた。何だか見覚えがある、嫌な予感しかしない。とりあえずお袋の手紙からまず目を通してみる事にした。 『颯斗へ。体調はどう?母ちゃんと父ちゃんは相変わらず元気にしちょるから心配いらんよ。作家で食べていけないようだったら、いつでも帰ってくるんだよ。母ちゃん、待っとるから。そうそう。アンタが小学生の頃に夢中になって書いてたもの見つけたから、初心に返るのもいいんじゃないの? 母ちゃんより』 生まれて何十年、インフルエンザにもかかった事がない両親の心配なんざしてねーよ、と突っ込みたくなった。問題は、お袋の手紙じゃなくて同封されていたノートの方。何故こんな黒歴史に近いものを送ってくるのか。初心も何も小学生の作文だぞ…何を考えてるんだ、俺のお袋…。
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