第一幕-異世界-

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大好きな叔父に影響されて書き始めたもの。亡くなる以前から話を書き始めて、叔父に読んで欲しくて、毎日飽きずに書いていた。続きを書く度に、叔父が療養している家へ出向き、読ませてたっけ。 叔父は「颯斗は物語を作る天才だ」なんて笑って頭を撫でてくれたもんだから、調子に乗った俺はマメに叔父の家へ通っていた。結局、最後まで書き終わる前に叔父が亡くなったから続きは書かなくなったんだよな。未完成のままだった筈。 古ぼけたノート。表紙には汚い字で『題名なし』と書かれていた。…題名なしって、思い浮かばなかっただけだろ、とか思いつつペラペラと適当にページをめくる。 …ところが、妙なのだ。毎日毎日必死に書いていた筈なのにどのページも白紙だった。流石に物語の内容まではわからないが、叔父に読んで欲しくて懸命に書いていた記憶は、今でもはっきり残っている。後から消した様子もないし、お袋だって初心に返るのもいいのでは、と言う位なのだから中身は見たのだろう。しかし、どのページも綺麗な白紙のまま。新品のノートでもめくってるかのよう。 「…?お袋、中身間違えて送った、とかじゃねーよな…」 首を傾げ、一番最初のページまでめくると縦書きでこう、書かれてあった。 『私は罪深き白うさぎ。私を、殺して』 「私は…罪深き、白うさぎ。私を…殺して?なんだ、これ…」 俺がそう文字をなぞるように呟くと突如、激しい眠気に襲われた。 …いや、確かに昨日も完徹したけど突如襲ってくる眠気は初めてだ。俺の意識が完全に途切れる瞬間、銀髪の長い髪の女の子の姿が見えたーー気がした。 『お帰りなさい。あの場所で、貴方を待ってる』 彼女は薄く笑いながら、そう呟いた。 「…ん…」 目を開けると、何故か俺は広い草原へ横たわっていた。 はい?何故に草原?俺、さっきまで間違いなくボロアパートの部屋ん中に居たよな。周りは一見草、草、草、たまに木。サバンナにでも迷い込んだんですか、俺は。 いやいや、おかしい。間違いなく築三十年以上のボロアパートの部屋で昔の俺の黒歴史と対面してた。 ところがどうしてこうなった。辺りを見回しても誰もいない。俺しかいない。…何かの冗談だよな?締切間近過ぎてとうとう幻覚が見え始めたか。 そう、夢だ。夢に違いない。つか、夢以外になんだってんだよ。馬鹿馬鹿しい。自分にそう言い聞かせながら俺は寝た。
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