第一幕-異世界-

9/13

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/160ページ
静かにドアが開き、赤い絨毯が引いてある廊下に、アルフレドを少し幼くしたような雰囲気の無表情の美青年が立っていた。リデルといい、アルフレドいい何でこんな無表情キャラが多いんだ。我ながら不思議に思う。 青年は被っていた赤いベレー帽を外し、ぺこりと一礼した。 「初めまして、アリス様。そして、ハートの女王の城へようこそ御出で下さいました。私は、世話係のビルと申します。どうぞ宜しくお願い致します」 …なんつーか。反応に困る位、馬鹿丁寧。後、何処か人間離れした感じがする。睫毛すげー長いし、瞳は金色。髪はサラサラのエメラルドグリーン。完璧な美青年。 「えっと…ビル?アルフレドとティムロットはどうしたんだ?それと、リデルは…。あの子と会ってからの記憶が曖昧なんだけど」 「アルフレド様とティムロット様は、女王陛下に謁見中です。…後者に関しましては、私からは言えない事になっております。申し訳ございません」 ビルはベレー帽を被り直し、廊下にあったワゴンを部屋に運んだ。ワゴンの上には、良い香りのするティーポットと、クッキーが置いてあった。思い返せば、現実世界に居た頃からパソコンに向かいっぱなしで、コーヒー以外何も口にしていない。盛大に腹の音が鳴った。 「城の庭で育てている木苺の紅茶と、森に生るカパーリークと言う木の実のクッキーでございます。此方のお召し物は久々でございますね」 「………?いや、久々も何も来るの初めてなんだけど」 ビルが淹れてくれた紅茶を一口飲み、そう答えた。木苺の紅茶なんて初めて飲んだけど、美味いな。…いや、違う。前にも、これ…飲んだ事あるような。いつだったろうか、思い出せない。 俺が首を傾げていると、ビルが俯いた。 「…そう、ですね。失礼致しました。アリス様、アルフレド様かティムロット様がお迎えに来ると思います。其れ迄、ごゆっくりと寛ぎ下さい」 紅茶の入ったティーポットとクッキーの乗った皿をベッドの側にある小さなテーブルに乗せ、ビルは一礼しワゴンを押して部屋を後にした。 何か変な事、言ったかな。ビルの口振りだと俺、前にもここに来て木苺の紅茶を飲んだような感じだったな。こんなファンタジー体験したら絶対忘れないと思うんだけど、俺自身よくわからないで居た。初めて飲んだ筈なのに、どこか懐かしい味。これを飲んでいるとほっと出来る。この矛盾は一体なんなのか。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加